症例対照研究 case-control study / retrospective study、ある特定疾患の患者群と非患者群の2集団について、個人の過去の記録から、ある要因に曝露していたか否かを調べ、因果関係を研究するスタイルです。
症例対照研究では、現に存在する患者群と対照群を慎重に選定さえすれば、情報はすべて過去の記録を調べればよいので、割に簡単に行うことができる研究方法です。
症例対照研究では、オッズ比(図2のad/bc)から近似的に相対危険度を推定し、その大きさで、因果的関連のある要因を選び出すことが多いです。
オッズ比を用いて相対危険度を推定することに関して今回は少し深く扱います。
私たちが疫学を用いて知りたいことは本来、要因の相対危険度です。相対危険度とは図1のA/(A+B)とC/(C+D)の比です。相対危険度とはコホート研究(prospective study)を行うことで、下の表が決定されてはじめて求めることができます。
もしも、症例対照研究において、図2のa/(a+b)とc/(c+d)の比を求めようとするものなら大間違いです。なぜなら、要因の有無別に分けたa + bとc + dは意味を持たないからです。a+b, c+dは患者群と対照群を同じ割合で代表しているわけではないからです。
#図1 コホート研究の分割表
#図2 症例対照研究の分割表
それでは、症例対照研究で要因と結果の因果関係をするうえで有用なパラメータは何なのでしょうか。
実はこれがオッズ比です。Q1およびQ2 を未知の標本の抽出率として(症例対照研究は未知のコホートを想定している)、
a + c = Q1(A + C)より
a = Q1A, c = Q1C
b + d = Q2(B + D)より
b =Q2B, d = Q2D
として
想定する母集団のコホートのオッズ比は、
AD/BC = (a/Q1)(d/Q2)/(c/Q1)(b/Q2) = ad/bc
となる。
この結果から、症例対照研究において、サンプルのオッズ比を計算することは、母集団のオッズ比を反映することになる。
ところで、私たちの本当の目的は相対危険度を求めることである。
冒頭で挙げた『症例対照研究では、オッズ比(図2のad/bc)から近似的に相対危険度を推定し、その大きさで、因果的関連のある要因を選び出すことが多いです。』という一文の本質に迫りたいと思います。
オッズ比から近似的に相対危険度を推定できるのは、一般に罹患率や死亡率などの小さい発生率のものに限られます。
これらの率では、図1において
A + B ~= B
C + D ~= D
と近似できるのです。なぜなら、A<<B, C<<Dだからです。
このとき、
{ A/(A+B)} / {C/(C+D)} ~= {A/B} / {C/D} = AD/BC = ad/bc
となります。
以上のことから、
『症例対照研究では、オッズ比(図2のad/bc)から近似的に相対危険度を推定し、その大きさで、因果的関連のある要因を選び出すことが多いです。』
と言うことができます。
################### 以下実例 #####################
新版 医学への統計学 p136より
「女性について肺癌患者108名、対照群108名を選出し、喫煙歴について調査してみると、下の表が得られた。相対危険度を推定し、その有意性の検定、ならびに95%信頼区間を求めよ」
この問題を考える上で大切なことは、下の(1)式で示すχ値の二乗値が標準正規分布に従うことです。
具体的な計算は以下のようになります。以下の式(4)は、,Miettienのの検定に基づく信頼区間と呼ばれています。
計算の結果、危険率5%の条件下でオッズ比は1よりも有意に大きいことがわかります。また、オッズ比の95%信頼区間は、1.19 〜 3.54 となります。有意差検定の結果を反映して、信頼区間には1が含まれていません。
一般に肺癌の罹患率は小さいため、オッズ比 2.05(1.19,3.54)は近似的に喫煙の肺癌罹患に関しての相対危険度と考えることができます。
【参考文献】
古川俊之 丹後俊郎『医学への統計学』朝倉書店 1993 133 - 136pp